子(し)曰はく、君子(くんし)は食(しょく)飽(あ)くことを求(もと)むるなく、居(きょ)安(やす)きを求(もと)むるなく、事(こと)に敏(びん)にして言(げん)に慎(つつし)み、有道(ゆうどう)に就(つ)いて正(ただ)すを学(がく)を好(この)むといふべきのみ。
(訳)学に志す者が、食物に飽くことを求める暇もなく、安楽な住処を求める暇もない程に一心に学に向い、とかく不足になりがちな知行(ちこう)の方をすばやく勉(つと)めようとし、とかく過ごし易い言語の方面はよくよく考えて発するようにし、それでもなお不十分と考えて、親しく知行や言語の標準となる有道者について正すならば、学を好む人であるということができる。
著者の解説では、中国の賢人尹焞(いじゅん)の言を引用し「君子の学は、この語の初めの四つを能くすれば、篤志者(とくししゃ)力行者(りきこうしゃ)とは謂われるが、有道者について正さないと、左傾し易い。利己主義を説いた楊朱(ようしゅ)や、兼愛(けんあい)主義を説いた墨翟(ぼくてき)などは、仁義を学んで左傾したものだから、そのあげくは父を無視し君を無視することになる。これでは学を好むとは謂われない」と書かれていました。
知行とは「知識と行為」の意味です。また、篤志者とは「社会奉仕や慈善事業などを熱心に実行・支援する人」のこと、力行者とは「修行を積んだ人」のこと。兼愛主義は、中国の思想家「墨子」によって唱えられた「自分を愛するようにすべての人を平等に愛する思想」のことです。機敏な行動と、慎重な言動、そして徳の高い人に自分を正してもらうように振る舞うことが、真の学問を志す人だと分かりました。