はじめに――携帯電話番号に新しい「060」が登場

私たちが普段使っている携帯電話の番号といえば、

070・080・090

が一般的です。

ところが今、新しい携帯電話番号として**「060」**が加わろうとしています。

総務省は、これまで使われてきた070・080・090の番号が将来的に不足することへの対応として、060から始まる11桁の番号を音声伝送携帯電話番号として利用できるよう、2024年12月20日に制度を変更しました。

当初は2026年7月以降に順次利用開始する予定でしたが、2026年7月8日にNTTドコモ、KDDI、沖縄セルラー、ソフトバンク、楽天モバイルの5社が提供開始時期の延期を発表しました。

現在、総務省は、必要な事業者側の対応が整った後、2026年度末までに順次060番号によるサービスが開始されるよう促しています。

では、なぜ携帯電話の番号は足りなくなるのでしょうか。

そして、そもそも、

「電話番号は誰が決めているのか?」

「携帯電話会社は、電話番号をどうやって取得しているのか?」

「日本とアメリカでは電話番号の仕組みが違うのか?」

と考えてみると、普段何気なく使っている携帯電話の裏側には、とても興味深い世界が見えてきます。

今回は、身近な「060」という新しい番号を入口にして、世界の電話番号がどのように管理されているのかを見ていきます。

なぜ「060」が必要になったのか

現在、日本の音声通話に使われる携帯電話番号は、主に

070・080・090

から始まる11桁の番号です。

しかし、携帯電話やスマートフォンの普及によって、これらの番号資源が少なくなってきました。

そこで総務省は、新しい番号帯として060を追加することを決定しました。

利用できるのは、

060-1~9

で始まる11桁の携帯電話番号です。

つまり、今後は、

070-xxxxxxxx

080-xxxxxxxx

090-xxxxxxxx

に加えて、

060-xxxxxxxx

という携帯電話番号も登場することになります。

現在使っている070・080・090の番号が使えなくなるわけではありません。

既存の番号は、そのまま継続して利用できます。

電話番号は「無限」にあるわけではない

電話番号は、一見すると数字をいくらでも増やせるように思えます。

しかし、実際にはそうではありません。

例えば、

060-1234-5678

という11桁の番号なら、使用できる数字の組み合わせには限りがあります。

しかも、すべての組み合わせを携帯電話番号として使用できるわけではありません。

緊急通報、各種サービス、固定電話、IP電話など、それぞれ用途が決められています。

そのため、携帯電話の普及によって利用者が増えれば、当然、携帯電話用の番号も不足してきます。

今回の060追加は、こうした将来的な番号不足に備えるためのものなのです。

電話番号は誰が決めているのか?

私たちは携帯電話を契約すると、

「あなたの電話番号は090-○○○○-○○○○です」

というように番号を与えられます。

では、この番号を携帯電話会社が自由に作っているのでしょうか。

そうではありません。

電話番号は、国が定める電気通信番号制度に基づいて管理されています。

日本では総務省が電気通信番号に関する制度を整備し、通信事業者に対して番号を指定します。

そして通信事業者は、指定された番号を利用して、契約者に電話番号を割り当てます。

大まかに考えると、

国の番号制度

通信事業者への番号指定

携帯電話会社

契約者

という流れです。

つまり、携帯電話会社が勝手に「090を使おう」と決めているわけではありません。

電話番号は「所有物」なのか?

ここで少し不思議な問題があります。

携帯電話会社が電話番号を取得すると聞くと、

「その電話番号は携帯会社の所有物なのだろうか?」

と思うかもしれません。

しかし、電話番号は一般の商品や土地のように「所有する」というものとは少し違います。

国が定めた番号制度の中で、通信サービスを提供するために使用する番号資源と考えるほうが分かりやすいでしょう。

例えば、総務省が携帯電話事業者に対して一定の番号帯を指定し、その事業者がそこから契約者に番号を割り当てます。

今回の060についても、総務省が新たに060-1~9で始まる番号を携帯電話事業者に指定可能としました。

携帯電話会社を変えても番号が変わらないのはなぜ?

ここで、さらに疑問が生まれます。

携帯電話会社が電話番号を使っているのであれば、

「A社からB社へ乗り換えたら、電話番号も変わるのでは?」

と思います。

しかし実際には、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)によって、携帯電話会社を変更しても電話番号をそのまま使うことができます。

例えば、

A社
090-1234-5678

から、

B社
090-1234-5678

へ乗り換えることができます。

これは、電話番号が単純に「携帯会社そのもの」を表す番号ではないからです。

電話番号は、通信ネットワークの中で、最終的にどこへ接続するのかを識別するために使われています。

日本から外国の携帯電話へ電話できるのはなぜ?

ここで、最初の疑問に戻ります。

日本の携帯電話から、アメリカや中国、韓国などの携帯電話へ電話することができます。

なぜでしょうか。

それは、世界各国の電話番号に国番号が割り当てられているからです。

例えば、

  • 日本 → +81
  • アメリカ → +1
  • 中国 → +86
  • 韓国 → +82
  • イギリス → +44

などです。

日本の電話番号、

090-1234-5678

を国際電話で表すと、

+81 90 1234 5678

となります。

この「+81」を見ることで、国際的な電話網は、

「これは日本の電話番号だ」

と判断できます。

ITU-TのE.164(世界中の電話番号を、国際電話で正しく識別するための世界共通のルール)は、国際的に一意となる電話番号体系を定めており、国番号を含む国際電話番号は最大15桁の体系になっています。

電話番号は「住所」に似ている

電話番号の仕組みは、住所に例えると非常に分かりやすくなります。

住所なら、

日本

都道府県

市区町村

町名

番地

と、徐々に範囲を狭めていきます。

電話番号も似ています。

世界

国・地域

国内の番号体系

通信事業者・番号帯

個々の電話番号

というように、数字を手掛かりにして接続先を絞り込んでいきます。

そのため、日本の電話番号とアメリカの電話番号が、国内だけで同じ数字になったとしても、国際的には国番号によって区別できます。

世界の電話番号は誰が管理しているのか?

世界全体の電話番号体系には、『ITU(国際電気通信連合)』が大きく関わっています。

ITU-TのE.164では、国際公衆電気通信番号計画が定められており、国番号の割り当てなどについて国際的なルールが設けられています。

現在のITUの国番号一覧を見ると、日本は「+81」、韓国は「+82」、中国は「+86」などとなっています。

ただし、ITUが世界中の携帯電話番号を一つ一つ管理しているわけではありません。

国際的な番号体系を基準として、それぞれの国が国内の電話番号を管理しています。

日本なら日本の制度、アメリカならアメリカの制度というように、国内の仕組みが存在します。

アメリカの電話番号は日本と違う

アメリカも、電話番号を管理するという基本的な考え方は日本と同じです。

しかし、番号の構造は日本と少し違います。

アメリカでは北米番号計画(NANP)が使われており、国番号は「+1」です。

例えば、

+1 212 555 1234

という番号なら、

+1 → 北米番号計画
212 → 市外局番
555 1234 → 個別の番号

という構造になっています。

日本では070・080・090が携帯電話番号として使われていますが、アメリカでは携帯電話専用の「090」のような番号帯ではありません。

同じ地域番号の中に、固定電話と携帯電話が存在できます。

ここは日本と大きく違うところです。

それでも世界中で番号が重複しないのはなぜ?

例えば、日本国内に

090-1234-5678

という電話番号があったとします。

別の国にも同じ数字の電話番号が存在する可能性はあります。

しかし国際電話では、

+81 90 1234 5678

となります。

別の国なら、その国の国番号が先頭につきます。

つまり、

国番号+国内番号

という組み合わせによって、国際的に電話番号を区別できるわけです。

これは、世界の住所に国名を付けるのとよく似ています。

日本からアメリカへ電話すると、声はどうやって届くのか?

では、日本からアメリカの携帯電話へ電話をかけたとき、声はどうやって太平洋を越えるのでしょうか。

現代の通信では、国際的な通信インフラとして海底ケーブルなどが重要な役割を果たしています。

電話の音声はデジタル信号として通信ネットワークを通り、日本側の通信網から国際的なネットワークを経由し、相手国の通信網へ届けられます。

そして最終的に、アメリカの携帯電話網を通って相手のスマートフォンへ到達します。

つまり、

日本の携帯電話

日本の通信網

国際通信網

アメリカの通信網

相手の携帯電話

という大きなネットワークが連携しているのです。

「海外への電話だから衛星を使っている」と思われることもありますが、国際通信を支える重要なインフラの一つが海底ケーブルです。

「060」の登場から見えてくる世界

ここまで見てくると、最初に出てきた「060」という新しい番号が、単なる新しい数字ではないことが分かります。

060が追加されるということは、

携帯電話を利用する人が増え、現在の番号資源だけでは将来的に足りなくなる可能性がある

ということです。

そして、新しい番号を追加するためには、

国が制度を変更する

番号資源を通信事業者に指定できるようにする

通信事業者が設備やシステムを対応させる

契約者に新しい番号を提供する

という段階が必要になります。

だからこそ、060は「数字を一つ増やせば終わり」という単純な話ではありません。

電話番号の変更には、通信業界全体の大きな仕組みが関係しているのです。

まとめ――たった11桁の数字の向こう側

私たちは普段、

「電話をかける」

という操作を簡単に行っています。

しかし、そのわずかな操作の裏側には、

電話番号制度

通信事業者

国際電話網

海底ケーブル

携帯電話基地局

交換・接続システム

など、非常に多くの仕組みが動いています。

そして、その入口となるのが「電話番号」です。

今回、新しく060という番号が加わることになったのも、携帯電話の普及によって、これまでの番号資源だけでは将来的に不足する可能性が出てきたからです。

2026年現在、060番号の提供開始時期は当初予定から延期されていますが、制度としてはすでに新たな携帯電話番号として追加されています。

電話番号は、単なる数字ではありません。

それは、

「世界中に張り巡らされた通信ネットワークの中で、どこへつなぐのかを示す住所」

ともいえるものです。

普段何気なく使っている携帯電話。

その画面に表示される11桁の数字を少し違った目で見てみると、そこには日本だけでなく、世界中をつなぐ巨大な通信の仕組みが見えてきました。